2018年8月、ついに「乳児用液体ミルク」の国内製造・販売が解禁されました。
欧米ではスーパーやドラッグストアで気軽に買え、すっかり普及している液体ミルク。
日本の法律では、粉ミルクしか規格基準等が設定されていなかったため、製造・販売ができませんでした。
ところがこのたび、ついに許可の運びに。
厚生労働省が、乳児用液体ミルクの規格基準を定めた改正省令を公布。
2018年8月8日施行となり、日本国内での製造・販売が可能になったんです。
参考:特別用途食品における乳児用液体ミルクの許可基準設定について
今、大注目の乳児用液体ミルク。
日本の育児に新風を吹き込むと言われていますが、いったいどのようなものなのでしょうか。
「なぜ液体ミルクが許可されたの?」「そもそも液体ミルクってなに?」「安全性は?」「メリット・デメリットは?」
今回は、「乳児用液体ミルクの正体」に迫ります。
Contents
液体ミルクってどんなもの?
そもそも「乳児用液体ミルク」とは、どんなものなのでしょうか。
乳児用液体ミルクとは、生後12ヶ月までの赤ん坊が、母乳の代わりに飲むよう作られたミルク。
原料は牛乳ですが、さらに乳児に必要な栄養分を含有・調整して作られています。
つまり粉ミルクと同じ栄養分が入っているわけですが、違うのは文字通り「液体」であること。
もともと調乳されたミルクが紙パックやペットボトル等に入っているため、お湯に溶かす必要なし。
また、赤ちゃんがすぐに飲める温度となっているのも魅力。
粉ミルクのように「70度のお湯で溶かしてから、適温まで冷ます」という手間がいりません。
使い方も簡単。
ボトルに、専用の乳首をセットするだけですぐに飲ませることができます。
紙パックの場合は、哺乳瓶にそのまま移せばOKです。
液体ミルクは、いわば粉ミルクの液体バージョン。
でも粉ミルク以上に便利である点が、今、注目を集めているんです。
液体ミルクが解禁となった理由は?
ではなぜ、液体ミルクが解禁されることになったのでしょうか。
その最大の理由は、「災害」。
日本は世界有数の地震大国。
災害が起こるたびに、最大の課題となるのは「赤ちゃんの命の確保」です。
しかしライフラインが途絶え、水の確保ができなくなると、粉ミルクを作るのは極めて困難になります。
さらに問題となるのは、衛生面。
被災地・避難所はどうしても衛生環境が悪くなりがち。
安全なミルクを飲ませるのが難しくなります。
そういえば以前、こんな話を聞いたことがあります。
乳児の死亡率が高い発展途上国に、先進国が大量の粉ミルクを送付。
赤ちゃんの命を救うために粉ミルクを送ったわけですが、その後さらに、乳児の死亡率は上がってしまったんです。
その理由は、雑菌の繁殖。
水が貴重な途上国では、清潔な水・お湯で粉ミルクを作ることができず、哺乳瓶を洗う水もなく、煮沸消毒もできません。
よって、雑菌に汚染されたミルクを赤ちゃんが飲むことになり、却って多くの赤ちゃんが死んでしまったんです。
この悲劇からもわかるように、水が貴重な状況では、粉ミルクは却って仇となることもあるんです。
そこで活躍するのが、液体ミルク。
2016年の熊本地震では、フィンランドから液体ミルクが救援物資として配布され、多くの家族に喜ばれました。
「水がない」「衛生的なミルクをあげられない」「避難所では授乳しにくい」・・液体ミルクなら、そんな非常事態でも安心。
赤ちゃんに、栄養たっぷりの清潔なミルクをあげることができるんです。
災害大国・日本で液体ミルクが解禁となったのは、当然の流れといえるでしょう。
参考:液体ミルクの国内製造可能に 省令改正、市販は19年以降
液体ミルクの安全性は?
さて、とても便利な液体ミルクですが、気になるのはやはり「安全性」。
日本は湿度が高いせいか「乾物信仰」が強い国。
液状のものへの不信感が強い傾向にあります。
乳児用液体ミルクの安全性は、はたしてどうなのでしょうか。
結論から言うと、「正しく使えば粉ミルクより安全」です。
乳児用液体ミルクは120度で4分間加熱殺菌され、無菌の容器に充填されています。
粉ミルクだと、商品そのものは無菌状態でも、家庭でミルクを作る際に雑菌が混入します。
よって、そのまま飲める液体ミルクは、粉ミルクより安全と言われているんです。
ただし安全性を確保するには、正しく使うことが肝心。
余った液体ミルクと飲ませると、すでに雑菌が入っているので安全性はガクンと下がります。
乳児用液体ミルク自体は非常に安全ですが、安全に飲ませることができるかは「使い方次第」です。
液体ミルクのメリット・デメリットは?
では液体ミルクのメリット・デメリットについて見てみましょう。
【メリット】
災害時に便利
先述しましたが、水や衛生面が確保できない環境でも、赤ちゃんに安全なミルクをあげることができます。
また避難所では、授乳もしにくく、赤ちゃんの泣き声も気になるもの。
ミルクをあげる際に、いつも以上に神経をすり減らしてしまいます。
すぐにあげられる液体ミルクなら、周囲に迷惑をかけることなくミルクをあげられます。
ミルクを測る手間がいらない
粉ミルクをつくる際、粉とお湯との分量を測るのが地味に大変ですよね。
すでに調乳されてる液体ミルクなら、測り間違いの心配なし。
常に正確に測られたミルクをあげることができます。
荷物を減らせる
赤ちゃん連れの外出は、荷物が多くなるもの。
オムツ、使い終わったオムツ入れ、着替え、離乳食・・・。
粉ミルクの粉と、お湯を入れた魔法瓶も入れると、荷物が重くて肩が抜けそうになります。
液体ミルクなら、荷物の負担が大幅軽減。
液体ミルクを持ったら、専用乳首やカラの哺乳瓶を持っていけばOKです。
他の人に育児を任せられる
液体ミルクはすでに調乳されているので、誰でもすぐに飲ませることができます。
よってパパはもちろん、祖父母に育児を任せることができます。
産後も仕事を続ける女性が増えるなか、「誰でも赤ちゃんのお世話ができる」という環境を整えるのは非常に大事です。
ミルクを作れるパパは多いと思いますが、祖父母となると作り方を忘れている場合も。
液体ミルクなら、誰でもミルクをあげられるので、仕事や外出時に他の人に育児を任せることができます。
「ママが突然入院!」という事態になっても安心です。
【デメリット】
価格が高い
液体ミルクは、価格が高いのがネック。
製造コストが粉ミルクの2〜3倍かかると言われており、その分、販売価格も高くなります。
ミルクをあげるのは毎日のことなので、割高なのは悩ましいところです。
変色や沈殿物が出る
液体ミルクは使う際、よく振らなければなりません。
なぜならミネラル等栄養分が沈殿してしまうからです。
また変色しやすいのも、液体ミルクの欠点。
液体ミルクはもともと茶色がかっていますが、保存しているうちに変色すると言われています。
質に変わりはありませんが、茶色がかっていることで、抵抗を感じる人も多いかもしれません。
参考:消費者庁が「乳児用液体ミルク」を「特別用途食品」として許可する基準を新設
液体ミルク、使う際の注意は?
液体ミルクをもし使うことがあったら、必ず守ること。
それは「残ったミルクを飲まない」ことです。
粉ミルクで作ったミルクも、余ったものは飲ませませんよね。
液体ミルクも同様。
飲み残しのミルクは、雑菌が繁殖しています。
残ったミルクは、速やかに廃棄しましょう。
液体ミルクは、いつから買える?
さて、いよいよ解禁となった液体ミルクですが、いつから国内産を飲めるのでしょうか。
現在のところ、早くても2019年以降と言われています。
実は液体ミルクの製造・販売は、メーカーにとって多くの課題が残っています。
- 液体ミルクの製造ラインをつくるコストが、莫大にかかる。
- 少子化のなか、コストを回収できるかどうか疑問。
メーカーにとって、液体ミルクの製造は大きな賭け。
製造ラインを1からつくり、粉ミルクの何倍ものコストをかけても、回収できるかは未知数。
さらに少子化で育児産業は尻すぼみなので、メーカー各社は二の足を踏んでいる状況です。
今後、液体ミルクの需要は高まっても、設備投資などを考えると、流通にはまだ時間がかかりそうです。
参考:液体ミルク解禁、一部企業に慎重姿勢-市販までに1-2年との声も
さいごに
いよいよ解禁となった乳児用液体ミルク。
喜びの声も上がっていますが、普及までには多くの難関が立ちはだかっています。
特に心理的抵抗は、まだまだ根強い様子。
先日の北海道地震では、東京都から送られた液体ミルクを「国内で使用例がない」「取扱いが難しい」とし、ほとんど使われなかったそうです。
(実際には熊本地震で使われていたのですが・・・。)
参考:被災地支援の液体ミルク使われず 東京都が千本提供 道、各町に「利用控えて」
でも知識不足や偏見から、赤ちゃんの命が守られなかったら元も子もありません。
メーカー各社の動きや、母乳とミルクのバランス、アレルギー問題、保育園の取り組み、ワーキングマザーの働き方など、様々な面から「液体ミルク」の今後を見守りたいものです。